2024年11月15日、滋賀県蒲生郡日野町にあるヴォーリズ和風建築、国登録有形文化財「岡家住宅」にて、秋季見学研修会を行いました。この時期にしては、珍しく暖房いらずの曇天で、参加者19名、所有者である岡さんご夫妻、ヴォーリズ建築の第一人者でもある山形政昭先生、計22名が集まりました。
岡家住宅は、ヴォーリズ建築の中でも珍しい和風建築です。所有者の岡さんから、ヴォーリズ事務所に設計を依頼した経緯を伺いました。岡さんの祖父は若くして亡くなり、祖母が結核を患っていた次男、岡さんのお父さんのために健康的な住まいをと考え、近江八幡で活躍していたヴォーリズ事務所に設計を依頼したそうです。スライドで各室の特徴や設計の考え方など、教えていただきました。今回の見学研修会に合わせて、リーフレットも更新。
続けて、山形先生からヴォーリズの和風建築住宅に関してのお話を伺いました。当時、日本では、いわゆる日本住宅である和風建築住宅の設計は大工の棟梁が行っており、建築事務所は洋風の大規模な建築を設計していた時代でした。岡家住宅は、昭和13年(1938)に設計されたものですが、唯一、ヴォーリズ建築事務所だけが、和風建築住宅の設計にチャレンジしていたということは、注目すべきことです。一般に設計事務所が日本住宅を設計するのは、1960年頃からだということです。
ヴォーリズ建築事務所の特徴は、日本の生活に根ざした間取り、玄関の靴入れに見られるような壁に埋め込んだ収納、茶の間の掘りごたつ、そして台所や玄関のタイル割りまで図面を描いたということなどが挙げられます。当時の日本の建築界に与えた影響は、とても大きなものでした。日本の建築史的観点からも、「岡家住宅」は非常に興味深いものだということです。
また、岡さんご自身のDIYによる、サンルームの補修工事などは驚くべきものです。DIYと言っても、柵や棚などを作るレベルではなく、ヴォーリズ建築の補修工事です。知識や経験なく、簡単に出来るものではありませんが、「分からないことはYoutubeで調べれば、なんでも分かる時代」という岡さんの言葉には、「岡家住宅」に込められたお祖母様の思いを継承したい!という、強い意志が感じられました。
結核を患われた岡さんのお父様のために、お祖母様が、ヴォーリズ事務所に依頼した健康に配慮した「岡家住宅」は、採光と換気を重視し、夏は涼しく、冬は暖かく設計され、また台所、ふろ場、トイレなど水回りは、タイルを使用し衛生的な環境を実現するなど、きめ細かく配慮されています。
お話しを伺った後、2班に分かれて、岡さん、山形先生の案内で、見学をさせていただき、そのきめ細やかな配慮には、感動を覚えるほどでした。ヴォーリズは、建築を専門的に学んだのではなく、アマチュア建築家であったからこそ、「建物の風格は、人間と同じくその外見よりもむしろその内容にある」と残しているように、建築家が建てたい住宅ではなく、依頼主のニーズに寄り添った、住み心地のよい住宅を作ったのでしょう。
見学の後、地元のお菓子屋さん「かぎや菓子舗」の「いがまんじゅう」をいただきながら、恒例の自己紹介タイム。かぎやのいがまんじゅうは、嘉永元年(1848)の創業当時から作り継がれている日野町の名物だそうです。
登録有形文化財の補修は、助成金を利用した大規模な補修だけでなく、日々の細かいメンテナンスが必要であり、日々のメンテナンスは、費用などを考えると、所有者が行うのが理想なのかもしれません。今後とも、所有者の皆さんに有用な情報を共有する場として、見学研修会を企画して行きたいと思います。
最後に、岡さんからご紹介いただいたサイトをご紹介します。鈴森素子さんが運営する住宅長期保証センターのYouTube「住まいの ちょう・ホット!ステーション」に岡家住宅の紹介動画があります。動画の内容は、設計監督依頼の経緯と、生活者目線での建物の特徴を述べられています。どうぞご覧下さい。