松樹館主屋ほか12棟は、2,000㎡におよぶ広大な敷地に建つ近江商人 松居久右衛門の旧宅の建造物です。敷地北面の前面道路沿いの水路にカワト、表門が建ち、敷地中央の主屋を中心として、西に北蔵、米蔵、新蔵、南に新寮、水屋、東に新建、廊下座敷と南蔵、文庫蔵が並び、敷地の南西隅には長屋が建ちます。表門から主屋までの石畳途中の左手に中門があり、その先には勝元鈍穴作の庭園が広がります。
主屋は、文化11年(棟札による)の建築で、当初は茅葺(現在は銅板葺)の農家住宅です。屋根を支える小屋は扠首組ですが、桁行に二段の貫を通す珍しい構造です。新建は、主屋東側に接続しますが、建物の床高を主屋の床より一段高くし、梅をあしらった意匠を凝らした欄間や床の間を設けたジョウダンノマを構えます。大正13年の久邇宮家の御成りの儀に向けて整えられたと考えられます。新寮は、南北に長い12畳の広さの部屋で、天井は南北二面に等分し、ともに折り上げ格天井を模した二段の天井としており、洋風の意匠を取り入れた部屋であったことがわかります。水屋は、花崗岩の切石を敷き詰めた土間とし、井戸や竈が並びます。廊下座敷は、新建と南蔵と接して建てられています。釣床を設け、その横には鼓形の下地窓を開けたり、小壁には意匠を凝らした欄間を設けるなど、数寄屋風の造りの座敷です。
5棟ある土蔵はいずれも外壁は漆喰塗り仕上げで、入り口は漆喰塗の両開き土戸としています。なかでも文庫蔵や新蔵などは内部に良材を用い加工も丁寧に仕上げられています。このほか住宅内の入り口となる表門や周囲を囲う塀、敷地北側に流れる川に設けられたカワト、敷地南西奥に設けられた長屋を含め、広大な敷地をもつ農家型の近江商人の本宅の屋敷構えが勝元鈍穴の作庭になる広大な庭園と一体として良好な状態で残っておりとても貴重です。

松樹館は、13年かけて教林坊のご住職がこつこつ修復され、現在は「マーチャントミュージアム 教林坊別院」として春と秋の期間限定で公開されています。

登録内容

登録対象主屋・新建・新寮・水屋・廊下座敷・文庫蔵・南蔵・北蔵・新蔵・米蔵・長屋・表門及び塀・カワト
年代主屋:文化11年(1814)/平成27年(2015)改修 新建:明治6年(1873)/大正前期改築 新寮:昭和8年(1933) 水屋:明治前期 廊下座敷:大正前期 文庫蔵:文政12年(1829) 南蔵:江戸後期 北蔵:寛政12年(1800)/江戸末期改修 新蔵:慶応1年(1865)/江戸末期改修 米蔵:万延1年(1860) 長屋:昭和前期 表門及び塀:大正7年(1918) カワト:大正前期
構造及び
形式
主屋:木造平屋建、茅葺(銅板仮葺) 新寮/水屋/廊下座敷/長屋:木造平屋建、瓦葺 新建:木造2階建一部平屋建、瓦葺 文庫蔵/南蔵/北蔵/新蔵/米蔵:土蔵造2階建、瓦葺 表門及び塀:木造、瓦葺 カワト:石造
建築面積主屋:114㎡ 新建:83㎡ 新寮:26㎡ 水屋:93㎡ 廊下座敷:15㎡ 文庫蔵:53㎡ 南蔵:32㎡ 北蔵:24㎡ 新蔵:45㎡ 米蔵:39㎡ 長屋:18㎡ 表門:間口3.6m 塀:延長136m カワト:8.0㎡
登録の基準主屋/新寮/水屋/廊下座敷/文庫蔵/南蔵/北蔵/新蔵/米蔵/長屋/表門及び塀/カワト:1 新建:2